トラブルが発生した際、そのトラブルの後始末は当然として、トラブルの内容が深刻なものであれば、当然、再発防止の対策にもそれなりの手間ヒマあるいはコストが投じられます。大手のメーカーや信用不安が命取りになるような金融業などなら、かかる費用にしても半端じゃありません。ところが、たくさんの費用や労力をつぎ込んでいる割りに、肝心カナメのトラブルの原因と対策で焦点が当たっている部分が、どう考えても「ピントがずれてんじゃないの」と思わざるを得ないようなけっこう普通にあったりします。
「個人情報保護法」が全面施行、情報漏れに厳しい目が注がれるようになって既に2年半近くになりますが、漏えい事件の報道の方は相変わらず数が減ったようには見えません。
直近のものに限ってみても、「NTT 東、病院患者の個人情報など約1万件流出(9/27 毎日)」、「ODNの顧客情報511件がWinny経由で流出。(9/21 BroadBand Watch)」、「NTT東:顧客3万、社員1万人分の情報流出(9/21 毎日)」、「アロシステム、顧客情報の一部が流出(9/16 朝日)」、「警察情報1900件流出=ウィニー介し、自宅パソコンから-三重県警(9/11 時事通信)」、「大手監査法人職員、ウィニーで情報流出(9/5 J-CAST)」等々、よくもまあこれだけとあきれるほどの状態です。
当事者の顔ぶれをみると、情報の取扱いではプロ中のプロと言ってもいいような情報産業や、警察、自衛隊、はたまた指導にあたる側と言ってもいい手監査法人等々。
原因の方はというと、保存したUSBメモリーをバッグごと盗まれた、あるいは、事務所アラシでPCごと持っていかれたとかも一部にはありますが、大半はWinnyなどのファイル交換ソフトが絡んだもの。
ただ、直接の原因以前の問題として、ほとんどの事件で共通しているのは、いわゆる風呂敷残業、今風に言えばメール残業などと呼ばれる仕事の進め方が常態化していたり、仕事に使用するPCの端末が不足していて、私物のパソコンを業務に使用しているなどで、大事な情報がたいしたチェックもなしに社外に持ち出されていること。
「データの持ち出しは禁止しているのですが、・・・」等々、コメントには出てくるものの、厳密にやれば仕事が回らない、となれば「持ち出し禁止」と張り紙はあっても無視されるのがオチ。
守秘義務に関しては「プライバシーマーク」という認証制度もあり、うちも仕事を頂いているクライアントに認証を受けている企業がみえ、時には日にちの作業の進捗まで事細かに報告を求められたり、データの送信もメール添付はダメで暗号送信で納品したり、といった対応を求められることも珍しくありません。
この手の認証は取得にそれなりの費用がかかり、認証を維持するためにも報告書、帳票の類が山ほど必要だったり維持管理の手間や費用も必要ですが、問題の本質がふろしき残業でもしないと仕事が片付かなかったり、仕事に使うPCが十分備えられていない、といった経営資源の整備の面にあるのなら、わざわざ報告書や帳票の枚数を増やして負担が増えれば却って逆効果にもなる可能性が高そうで、対策の目的自体、問題の原因をつぶすよりは、「こんな風に対策を取っていまっせ」とアピールする方向に重点を置いているように見えてしまいます。
中には、トラブルの原因の検証自体「ちゃんとできたんかなあ?」と思えてしまうような例も。
「教育の荒廃」だの「学力の低下」だのと言われ、現在、中央教育審議会で進められている学習指導要領の改定では「脱ゆとり教育」に向け、授業時間を増やしたり前回削除された学習内容の復活が検討されているようです。
「詰め込み教育」の反省から「ゆとり教育」に舵をきってから、まだようやく6年あまり、「ゆとり教育」で学校生活のスタートをきった第一世代はようやく小学校6年生。学力の低下を問題視された生徒達は学校生活の大半を「ゆとり教育」切替前に過ごしており、学力低下をそのままゆとり教育の弊害とするのは、ちょっと無理があるように思います。
また、学力低下として騒がれている内容は主に分数の計算など基礎学力にあたる部分。これを、難しすぎるとして外された学習内容を復活させて改善しようというのですから、ほとんどハチャメチャに近い対策です。
トラブルに対処する目的で取られる対策が肝心の部分に届かないのは、組織として、できれば向き合いたくない部分があいまいなまま残されていたり、問題の改善という形を取りながら自分の嗜好や考え方に合う方向に進路を向けることに目的がすり替わってしまっているからです。
きちんとした原因の検証もなく、ともすれば帳票やハンコの数で「対策を採っています」式の対応に終始する傾向は、この国に、官僚主義、事なかれ主義といわれた体質が未だ抜けきっていないことからくるものかもしれません。ただ、問題の先送りがときに大きなしっぺ返しを招くことは、このところ目に付く製造業の製品事故などが実証しています。
早めに問題を産む根本と向き合う勇気を持つことが、結果的には利益となって帰ってくることを、日本社会はもう少し学ぶ必要があるようです。
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